「……っ…!!」
がばっ、と、布団から跳ね起きた。
別に、悪夢を見たわけでも、物音が聞こえたわけでもない。
理由はわからないが、何かが、何かが違う。違和感を、胸騒ぎを感じる。
とりあえず顔でも洗おうかと、なんとなく、ふらふらと、洗面台に向かう。
ふと時計を見れば、ちょうど夜中の0時を指していた。
そして、洗面台につき、電気をつける。
ぱ、っと電気がついた瞬間、ぼくは鏡を見て、目を見開いた。
「なん、で………」
鏡の中のぼくは、笑っていた。
まるで、あいつのように。
その瞬間、冷や汗がとめどなく流れてくる。
感じるのは、喪失感、なんていう生半可なものではなく、まるで、体が半分にされたような、もともと1つのものが、二つに引き剥がされたような、感覚。
もともとひとつのものが、バラバラに、壊される、感覚。
ぼくは、鏡に触れた。
鏡の中と外。
裏と表。
一番近いのに、決して触れることができない位置。
ぼくとあいつが出会ったことが、そもそもの間違いだったというのか。
決して触れることのない、関係。
それを崩してしまったことが、全てのバランスを狂わせてしまったのか。
「違う……」
ぼくは、鏡の中の笑っている自分をにらみながら、言った。
「ぼくは、こんな風に笑ったりしない。そして・・・・」
脳裏に浮かぶは、特徴的なあいつの笑い声と、その笑顔。
まるで、自分が笑わない分、あいつが笑ってくれているかのように、あいつはいつも笑っていた。
「これは、あいつの笑顔じゃない。」
ダン、と、こぶしで鏡を叩く。
ピシリ、と鏡にヒビが入り、目の前の笑顔が歪む。
破片が刺さり、手から血が滴り落ちる。
再びそこに目をやると、死んだ魚の目をした、いつものぼくの顔が。歪みながらも映っていた。
でも、それは、どこか『いつものぼく』の顔とは違っていて。
否、変わったのは顔ではなく、ぼく自身。
鏡を見ても、そこには何も映っていないような感覚が、ぼくを襲う。
それは。
鏡の向こうの『僕』を、喪ったことを、表していた。
End
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06.05.13 水霸