結局、三度目の殺し合いが終わっても、どちらかが死ぬことはなかった。
勿論、生きているといったって俺と出夢の負った傷の深さは天と地ほどの差があ る。
いくら出夢に鍛えてもらったといったって、力量に違いがありすぎるのだ。
俺にトドメをさすことなんて、アイツにとっては至極簡単なことだっただろう。
しかし、出夢はそうしなかった。出夢が一体何を考えているのか、何を望んでい るのか、全く見当がつかなかった。
ただ一つだけ分かるのは――あのじゃれあいのような、甘ったるい日々が、終わ りを告げたということだけ。
出夢との戦闘が終わり、俺はボロボロになりながら学校から出て、手当てのため に家へ向かった。
手当てがしたいなら保健室に行けばよかったのかもしれないが、あの学校に居続 けることは躊躇われたのだ。
制服も体もボロボロで、周りからしたら怪しいことこの上ないだろうが、そんな視線を 気にしている余裕などない。
家に着き、ドアを開ければ、静かな部屋が広がっていた。
元々一人暮らしなのだから、出迎えるものがいないことなど当たり前なのに、急 に部屋ががらんとしたものに感じてしまうのは。
「おっかえりー、ぜろっち」
勝手に部屋に入って勝手に人の冷蔵庫を漁ってくつろいでいた奴の姿が、脳裏を よぎったからだろう。
その記憶を打ち消すように、俺は頭を左右に振った。
しかし、記憶というのは一度思い出してしまえば頭から消えてしまうことはなく て。
ベランダの外に出夢が立っていて、入れることを拒否したらガラスを割られてし まったこと。
無理やり作らされた食事を一緒に食べたこと。
風呂を覗かれそうになって悶着があったこと。
レクリエーションのような殺し合いのとき、あいつが壁を凹ませてしまったこと。
ベットの上で戯れたこと。
気付けば、家のそこかしこに、出夢との記憶が溢れていた。
それは、思い出と呼 んでも相違ない気がしたが、そんな甘ったれた呼び方は躊躇われた。
部屋の中のそこかしこに、出夢の姿が焼き付いていて。
どこを見ても、出夢の顔が、声が、浮かんできてしまう。
いつの間に、そんな多くの時間を出夢と過ごしていたのだろうか。
時間にしたら、たった半年。毎日会っていた訳でもないから、一緒にいた時間な どごく僅かだ。
なのに、いつの間にか出夢と過ごす時間が、当たり前になっていて。
その訪問に 慣れていき、それを迷惑だと思う感情が、少しずつ薄れていって。
そして、
「――駄目だ」
これ以上、考えてはいけない。俺の中の何かが、警鐘を鳴らす。
それに、気付い てはいけない。もうこれ以上、出夢のことを考えたくない。
だから。
俺は、家を出た。
End
Back
勢いで書いてしまった気がします。ひといず書こうとすると人識の独白が多くなってしまうんですよね…
人識はどのへんで自分の気持ちを自覚したんでしょうか…それがまだわからないので、こんな小説になりました。
それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。
09.04.21 水霸