Rainbow*Chaser

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「しっかし、本当に人識がお返しくれるとは思わなかったなー…」
そう言うと出夢は上機嫌そうに笑いながら本日何個目かわからないケーキにフォークを突き刺した。

お返しやらなかったら確実に殺る気満々だったろ、と人識は喉元まで出掛かった言葉を必死で飲み込む。
そんなこと言ったら今目の前にあるフォークがこちらに飛んできそうだから。
……というか、普段から出夢は俺相手に殺る気満々じゃねぇか、と人識は思ったのだが、そこはあえてこの際置いておく。


現在重要なのは、そんなことではなくて。

「……なぁ、出夢。」
「んー?」



「何で俺がこんな格好しなきゃいけねぇんだよ!!」

怒りと羞恥に震えながらバン!とテーブルに手をついて立ち上がったのは、かわいらしい顔立ち、長い黒髪、薄い桃色のワンピースの……どこから見ても、女の子。
言うまでもなく、零崎人識である。
ただし、現在は黒髪のウィッグを着用している。


出夢は暫く悩むような素振りを見せた後、こう言った。

「……僕の趣味?」

その言葉を聞いて、人識は深くため息をついて一気に脱力した。

「なんだよ、そんな顔してちゃかーわいい顔が台無しだよー?俊子ちゃん」
「誰が俊子だ!!」

対する出夢は、Yシャツに、スラックス、ジャケットという格好で、どちらかというと男っぽかった。
つまり、旗から見れば二人はカップルそのものだった。
その二人が実は男女逆転しているなんて、誰も想像だにしないだろう。




ことの発端は数時間前に遡る。

ホワイトデーは30倍返しで、という出夢の言葉に1ヶ月間悩み続けた人識は、結局有名ホテルのケーキバイキングをお返しに選んだ。
そのホテルのケーキは美味しさも一流だが値段も一流だ。あらゆる方法を使ってお金を用意して、バイキングを予約した。
そして、出夢に忠告の電話をしておくことも忘れなかった。

『ホワイトデーはちゃんとした服を着てくるように―――』と。

電話でその旨を伝えると、出夢は二つ返事でそれを了承した。



しかし、ホワイトデー当日。
僕はいつもと違うようにしてるのに人識が普通の格好じゃつまらない、と出夢が人識に紙袋を差し出した。
紙袋の中には、ワンピースと、上着と、ウィッグ。

人識は目の前が真っ暗になる、ということを身をもって体験した。
拒否すればしたでホワイトデーがレッドデーになるのは火を見るより明らかだったし、『ホワイトデーなんだから僕の言うこと聞いてくれてもいいんじゃない?』という出夢の言葉にやり込められてしまった人識は、予約した時間が迫っていたこともあり、いつの間にかその服に袖を通してしまっていた。
しかし、我に返ると、何やってんだ俺、という思考ループに陥るのだ。



「ほら、そんな細かいこと気にしてっと美味いケーキも美味くなくなるぞー」
と、出夢はフォークを振りながら笑う。

誰のせいだ誰の、と再びこみあがった文句を必死で押し込める。
出夢はそんな人識の心情なんておかまいなしに、次々にケーキに手を伸ばしていっていた。

バイキングで食べ放題、といっても勿論時間制限はある。
シャレにならないくらい高い料金を払っているのだ。食べれるだけ食べておかなければ、勿体ない。


人識は頭を切り替えるように首を二、三度左右に振ると、いつものような笑みを浮かべた。

「こうなったらヤケだ……食えるだけ喰ってやろーじゃねぇか。」
「おっ、人識やる気じゃーん。んじゃ、早食い勝負でもするー?」




数分後。

「苺いっただきー」
「あ、てめいつの間に…!ていうか苺のない苺タルトなんてまるでネタのねぇ寿司じゃねぇか!」
「悔しかったら僕のも盗ってみればー?」

ぎゃはは、という出夢の明るい笑い声があたりに響く。

結局バレンタインのときと一緒じゃねぇか、と人識は必死でケーキを出夢から守りながら、思った。




そして。

二人が帰った後には、ケーキが1かけらも残らず、残りの予約の人を全てキャンセルしなければならなくなったとか。
二人の食べるスピードの速さのあまりウェイターたちも何もいえなかったとか。
支配人が厨房で泣いていたとか。

全ては、二人の胃袋のみぞ知る。






End



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06.03.15  水霸



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